【年功序列賃金 見直し議論】日経新聞2014年10月1日付抜粋
・・・「政府、賃上げ意識/労組側は慎重」
来年の春季労使交渉を巡り、年齢とともに賃金が上がる「年功序列」の見直しが焦点の1つになりそうだ。
デフレ脱却に向けて賃上げを重視する安倍晋三政権が、日本型の賃金・労働慣行を見直して若い世代の賃金を手厚くすべきだと問題提起したためだ。
ただ年功序列は法律の決まりごとではない。長年の労使協調に風穴を開ける議論は波乱含みだ。
政労使会議から一夜明けた30日朝。塩崎恭久厚生労働相は閣議後の記者会見で「年齢だけでなくいろんなことで賃金が決まるのが望ましい」と述べた。
労使が決めるべき賃金に政府が踏み込むのは、1999年以来、15年ぶりの伸びになった今年の賃上げを続けるには賃金制度の見直しも必要とみるためだ。
日本の賃金は賃金水準を引き上げる「ベースアップ」と、年齢が上がると賃金も増える「定期昇給」の2つに分けられる。
能力重視の給与制度が広がり「ベア」の考え方をなくした企業もあるが、定昇は多くの企業が維持している。
年功序列の見直しは定昇の見直しにつながるだけに議論が過熱しやすい。
経済同友会の長谷川閑史代表幹事は30日の記者会見で「管理職は年功序列になじまない」と指摘した。
日立製作所は本体の国内管理職約1万1千人を対象に、世界共通基準で職務や個人業績の評価を基に報酬を決める賃金体系を10月から導入する。
海外に展開する企業は賃金慣行も見直し対象にせざるを得ない。
ただ労働組合は定昇へのこだわりだ強い。2000年代の春季労使交渉で厳しい経営環境に配慮してベアを要求しない代わりに、定昇は維持するように求めたことも多いためだ。長谷川氏も「職種によっては(年功見直しが)なじまないかもしれない」という。
「賃金カーブは労使で議論した積み重ね」。29日の政労使会議の後、連合の古賀伸明会長はこう語った。
政府が持ちだした論点は、来年の春季労使交渉に向けて労使で大きな議論を呼ぶことになりそうだ。
【先進国賃金0.2%増】
ILO昨年調べ、「日本、増税で懸念」
世界で賃金が伸び悩んでいる。国際労働機関(ILO)が5日発表した世界賃金報告によると、物価の変動を割り引いた先進国の実質賃金は2013年に前年比0.2%増と2年連続でほぼ横ばいだった。1%割れは6年連続。世界全体でも同2.0%増で同0.2ポイント低下した。ILOは「消費不振によるデフレのリスクが高まっている」と警告する。
金融危機前の07年を100とした実質賃金の指数を見ると欧州債務危機の影響が大きかったギリシャとスペイン、イタリアに加え、日本と英国も100を割り込んでいる。米国は101.4、ドイツは102.7だった。
ILOのポラスキー事務局長補は13年の賃金が停滞した理由について「欧州が予想を下回ったことに加え、日本も回復しなかった」指摘。着実に経済回復が進む米国に比べた日欧の弱さが原因だとの認識を示した。また、日本については4月の消費税率の引き上げが改めて賃金に響く懸念があるとした。
世界全体の伸び率は中国の寄与度が大きく、中国を除くと同1.1%増。新興国・途上国ではアジアが同6.0%増、東欧・中央アジアが同5.8%増と比較的高い。
ILOは政界の賃金の状況を改善するには、最低賃金の引き上げや労組による賃上げ交渉の強化が必要だとしている。同報告は世界130カ国・地域のデータを集計。世界の被雇用者の約96%に相当するという。
日経新聞2014年12月5日記事