精神障害と労災

精神障害と労災

障害者の雇用に関して企業の人事や労務について情報を掲載-精神障害と労災について

精神障害と労災

最近では職場における長時間労働やストレスによってうつ(鬱)といった病を発症し、なかなか職場復帰が出来ずに苦しむ労働者の声や職場の人間関係が原因でセクハラやパワハラの被害を訴えるケースが目立つようになってきました。年々従業員が安心して快適に働ける環境の維持・確保が困難になっている印象を受けます。

 

そのような状況を反映するかのように精神障害での労災請求が増加傾向にあります。同時に仕事によるストレスが関係した事例が複雑化しており、そのような中で、厚生労働省は労災の認定を迅速に行うために平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準(以下「認定基準」)を定めました。

 

今後、事業者はこの認定基準を十分に把握したうえで職場の安全衛生向上に努める事が求められます。
また、働く人はこの認定基準を理解して長時間の労働が身体に及ぼす健康被害に対する認識を高めることが大事です。

 

従業員が精神障害に陥ってしまった場合、事業者はその従業員が職場復帰できるよう出来る限りのサポートをしなければなりません。それは事業者によって直接・間接的コストが増えるだけでなく、戦力のロスや企業イメージのダウンなど様々なデメリットが生じます。
一方、労働者の方も健康を害することで不便なことばかりか経済的不安まで発生します。これは死活問題です。

 

事業者と働く人の双方が共に理解と協力をしあって快適な職場環境作りをする事が、双方にとってのメリットにつながるのです。
もし、不幸にして労働者が精神障害を発症した場合は速やかに労災による救済を求めましょう。

 

精神障害の場合は原因の特定が難しいケースがあります。ですが、発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものだと判断できる場合に限ります。その判断には業務以外のストレスや個人的事情を考慮して医学的に慎重になされます。

 

精神障害と労災

 

厚生労働省は平成11年に定めた「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に基づき労災認定をしてきましたが、より迅速は判断ができるようにと平成23年12月に現在の認定基準を新たに定めたのです。その認定基準を紐解き簡潔に要点をまとめてみたいと思います。皆さんの何かの参考になれば幸いです。

精神障害について労災認定の要件とは

労災の認定を受けるための要件は次の3つです。

@認定基準の対象となる精神障害を発病していること
A認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、 業務による強い心理的負荷が認められること
B業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

 

解説:
「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、業務による因果関係を指します。

 

業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況によって、労働者が強い心理的負荷を与えられたかどうかが問われます。

 

・心理的負荷の強度は、客観的に評価されます。
精神障害を発病した労働者がその出来事とその後の状況をどう受け止めたか?という主観的な見方ではなく、同種の労働者なら一般的にどう受け止めるかという観点からの評価になります。ここで言う「同種の労働者」とは、職種や職場における立場、責任、年齢、経験などが類似する人を意味します。

 

精神障害の分類と認定基準の対象となる障害

 

業務に関連して発病する恐れがあるとされる精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)です。

 

分類コード

症状の種類

F0

症状性を含む器質性精神障害

F1

精神作用物質使用による精神および行動の障害

F2

統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害

F3

気分[感情]障害

F4

神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

F5

生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群

F6

成人のパーソナリティおよび行動の障害

F7

精神遅滞[知的障害]

F8

心理的発達の障害

F9

小児期および青年期における通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

厚生労働省 ICD-10 第X章「精神および行動の障害」分類

 

 

業務による強い心理的負荷が認められるかどうか

 

(別表1)「業務による心理的負荷評価表」によって「弱」「中」「強」を判別。
⇒労働基準監督署の調査に基づき、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、
この別表1「業務による心理的負荷評価表」のP.5〜P.9により「強」と評価される場合は認定要件のAを満たします。

 

新しい認定基準では、出来事と出来事後を一連のものとして総合評価。

 

その出来事による心理的負荷がどの程度のものだったのかによる判定となります。

 

●「特別な出来事」に該当する事実がある場合
⇒心理的負荷の総合評価を「強」とします。つまり、【労災】にあたります。

 

●「特別な出来事」に該当する出来事がない場合
⇒次の手順により心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と評価します。

 

(1)「具体的出来事」への当てはめ
業務による出来事が、別表1の「具体的出来事」のどれに当てはまるかを判断します。
ちなみに、別表1では、「具体的出来事」ごとにその平均的な心理的負荷の強度を、
強い方から「V」「U」「T」と示しています。

 

(2)出来事ごとの心理的負荷の総合評価
当てはめた「具体的出来事」の欄に示されている具体例の内容と事実関係が合致する場合は、その強度で評価します。
事実関係が具体例に合致しない場合⇒「心理的負荷の総合評価の視点」の欄に示す事項を考慮し、個々の事案ごとに評価。

 

(3)出来事が複数ある場合の全体評価
a) 複数の出来事が関連して生じた場合には、その全体を一つの出来事として評価します。
   原則 = 最初の出来事を具体的出来事として別表1に当てはめ、
        関連して生じたそれぞれの出来事は出来事後の状況とみなし、全体の評価をします。

 

b )関連しない出来事が複数生じた場合には、
  出来事の数、それぞれの出来事の内容、時間的な近接の程度を考慮して全体の評価をします。

 

 

業務以外の心理的負荷による発病かどうか & 個体側要因による発病かどうか

 

・業務以外の心理的負荷に相当するかどうかは、(別表2)「業務以外の心理的負荷評価表」によって、負荷の強度を評価します。

 

「V」に該当する出来事が複数ある場合などは、それが発病の原因であるといえるかを慎重に判断します。

 

・精神障害の既往歴やアルコール依存状況などの個体側要因については、その有無とその内容について確認し、
個体的要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるかを慎重に判断します。

長時間労働がある場合の評価方法

 

長時間労働は精神障害発病の原因となり得えます。その長時間労働は次の3通りの視点から評価します。
※ここでの「時間外労働」は、週40時間を超える労働時間をいいます。

 

@「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」
発病直前の極めて長い労働時間を評価します。

 

【「強」になる例】
・発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合

 

A「出来事」としての長時間労働
発病前の1か月から3か月間の長時間労働を出来事として評価します。

 

【「強」になる例】
・発病直前の2か月連続して1か月あたりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3か月連続して1か月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合

 

B他の出来事と関連した長時間労働
出来事が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価します。

 

【「強」になる例】
・転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合

 

 

上記の時間外労働時間数は目安であり、この基準に至らない場合でも、心理的負荷を「強」と判断することがあります。


 

評価期間の特例:
認定基準では、発病前おおむね6か月の間に起こった出来事について評価します。
ただし、いじめやセクシャルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては発病の6か月よりも前にそれが始まり、発病まで継続していたときは、それが始まった時点から心理的負荷を評価します。

 

 

最後にまとめ

毎月どれだけ長時間労働が続いたか?! 監督署は労働時間の把握調査に力をいれます。
事業者も労働者も労働時間の管理が重要なポイントですのでしっかり対策しましょう。

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